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「琵琶湖の危機」と必要以上に騒ぐのはやめて,
いまこそびわ湖の環境再生に向けて動きだそう
    
 
 2007年の暖冬のために,湖面冷却による鉛直循環が充分には発達せず,びわ湖(琵琶湖)湖底の溶存酸素濃度が回復しにくい状況であったのは事実ですが,この現象を必要以上に人心の不安感をあおるようにマスコミに”宣伝”をしている者達がいました。まるで,「オオカミが来るぞ」という寓話そのままのようでした。案の定,3月後半の冷え込みにより,酸素濃度はある程度回復しました(下図左)。「びわ湖の危機」ばかりを訴えていたのでは,相変わらず「汚いびわ湖」のイメージが払拭できませんし,人々に「びわ湖はもう終わり」という印象さえ抱かせることになります。その結果として,びわ湖への関心が希薄となることが危惧されます。びわ湖には,いまでもそのまま飲める「冷たい深層水」が湛えられています。「汚い湖」ばかりを追いかけるのではなく,もっとびわ湖のすばらしさや,私たちにできる環境保全など,前向きな議論をしたいものです。それが環境教育の真髄だと私は思っています。

 びわ湖の水質は確かに悪化してきたのですが,まだ美しい水(特に深層水)が存在しています。私たちは,調査艇を利用した「びわ湖体験学習」の中で深層水を直接飲んでいます。冷たくて実においしい水です。その深層水が酸素不足で危なくなっている今だからこそ,大騒ぎなどしている場合ではなく,びわ湖の水質改善に新たなスタートをきるべきなのです。びわ湖の水は約20年で入れ替わると考えられますから,私たちの努力によって「碧いびわ湖」を子供たちの世代に残すことが可能です。そのためには,貧酸素化をもたらす富栄養化を軽減(流入する河川水をきれいに)することと,今年のような暖冬をもたらす「温暖化」を食い止めることです。20年は決して長い年月ではありません。「汚い湖」というレッテルを貼って,ずるずるとびわ湖を病ませることだけは絶対に避けたいものです。

 報道の中で,「琵琶湖の深呼吸」という表現がさかんに用いられましたが,誤用が多く見られました。それは雪解け水に関する記述です。多くの湖沼では,冬季の湖面冷却により低温で重くなった表層水が深層へ沈降し,その代わりに深層水が上昇します。この鉛直循環が湖底にまで達する場合を「全層循環」と言って,酸素を豊富に含んだ表層水が湖底に運ばれるので,夏以降に貧酸素化していた深層にフレッシュな酸素が運ばれます。これを「深呼吸」と呼んでいます。ちなみに,「琵琶湖の深呼吸」という表現をはじめて用いられたのは滋賀大学名誉教授の岡本巌先生です。びわ湖北湖は,亜熱帯湖または「一回循環湖」というカテゴリーに属し,冬季にのみ「全層循環」することから「びわ湖は1年に1回だけ深呼吸する」と表現されます。雪解け水が湖に流入する現象は,湖水の鉛直循環にはほとんど関係しないために「深呼吸」とは呼びません。

 下図左は,2007年のびわ湖北湖における溶存酸素濃度の分布を示したものです。2月や3月には底層付近に水温成層が残っていて,溶存酸素もかなり低い値を示していますが,4月や5月の分布はほぼ例年並になっています。今後の推移に注意する必要はありますが,結局,「オオカミは来なかった」と言うべきでしょう。(2007年5月記)


 ところで,雪解け水は低温であるから湖底に潜る,と盲目的に信じられていますが,果たして本当でしょうか?水は4℃で最大密度になりますが,冬季のびわ湖水温は7〜8℃です。仮に雪解け水が4℃だとしても,4℃の水と7℃の水ではほとんど密度差はありませんから,強風によって沿岸域で両者は容易に混合し,湖の奥深くに潜り込むとは考えられません。また,雪解け水は2月や3月に流入することが多いのですが,この時期には河川を流れ下る間に水温が上昇し,湖水よりも高温になるケースもあることが私たちの観測結果からも示されています。

 2007年秋には,びわ湖の湖底の低酸素化が進みましたが,幸い無酸素化は回避できました。この現象を地球温暖化と直結させるような報道がなされましたが,底層の低酸素化はおもに富栄養化によることを肝に銘ずるべきです。窒素やリンの流入によってプランクトンなどの有機物が増殖し,それが湖底近くでバクテリアによって分解されるときに大量の酸素が消費されます。

 よく例に出される池田湖(鹿児島県)は,昔から冬季の冷却が弱いと全層循環が生じないことがありましたが,貧栄養湖であったため,湖底の低酸素化は問題にはなりませんでした(たとえば,佐藤芳徳1985)。池田湖の低酸素化が問題になったのは,河川水を湖に導入したことにより湖水の富栄養化が急速に進行したためで,地球温暖化は低酸素化に拍車をかけているものの,直接的な原因ではありません。浅い湖や池でも富栄養化によってプランクトンが増殖すれば,温暖化に関係なく底層での無酸素化は生じます。噴水を設置したり空気を底層に送り込んだりして無酸素化を予防する対策がとられている湖もありますが,水温成層を人為的に破壊することは湖の生態系に重大な悪影響を及ぼします。

 2008年になって,1月末にはびわ湖の溶存酸素が全層で回復しました(下図右)。これは,例年よりも半月ほど早く,低温な日々が続いたことと,2007年の底層水温が例年より高く約8℃で推移したために,鉛直循環がおこりやすい環境にあったと考えられます。地球温暖化の影響として一番心配なことは,しだいに気温や水温が上昇することよりも,気象変動の振幅が増大し,いわゆる異常気象が高頻度に出現することでしょう。2008年の寒い冬によりびわ湖の底層水温が低下し,年間を通して維持されると,来年が再び暖冬の場合には昨年と同様に鉛直循環が湖底まで届かず,びわ湖の深呼吸が遅れる可能性があります。つまり,暖冬と厳冬の繰り返しのような振幅の大きい気象変動は,富栄養化で苦しんでいるびわ湖にさらなるプレッシャーをかけることになります。

 いまの経済活動の中での地球温暖化防止に時間がかかるとすれば,びわ湖の酸素問題の解決のためには,まず富栄養化を食い止めることに集中すべきではないでしょうか? 私たちびわ湖を愛する者としては,「びわ湖の危機」と必要以上に大騒ぎするのではなく,確実なデータに基づき細心の注意を払って母なる湖(Mother Lake)の再生に全力投球をしたいと思います。自分の母親が死にかけているのを吹聴する子がどこにいるでしょうか? (2008年2月追記)



びわ湖北湖の溶存酸素濃度分布の季節変化


©2017 SEndo Kouta

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